私にとって夏の作品と言えば、映画館バイトで映写機でトラブルを起こした「世界の中心で愛を叫ぶ」
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夏の終わり、大きなトラブルを引き起こした映画が最も私の中で印象に残っている映画である。
それは「世界の中心で愛を叫ぶ」だ。
大学生時代、今からは10年も前の話なるが、私はとある映画館でアルバイトをしていた。
シネコンと言われる「一つの映画館の中に6つも7つもスクリーンがある映画館」でのアルバイトだ。
私は特段映画が好きなわけではない。
しかし、大学生時代は教科書代や通学定期代、遊び代、服代、海外旅行代などすべて自分で稼がなければならなかったため、アルバイトは結構なウェイトを占めた。
浪人をして1年フルで予備校に通わせてもらったこともあったため、ぜいたくは言えない。すべて自分で稼いでいた。
ただ、アルバイトは毎週結構な時間ウェイトを占めるのに、つまらないアルバイトなんてできるわけがない。
だから、「なんだこれは!?」と思えるような、「少しだけ特別なアルバイト」を探していて、出会ったのがこの映画館のアルバイトである。
そこでやることは「映写機を回す」ということ。
あるいは「新規入荷したフィルムのキズチェック」
または「清掃」「上映中の見回り」である。
機械を遊ばせても売り上げが上がらないため、開店からレイトショーまで、ほぼ常時7つの映画が同時進行するのである。
映画を見る人の側からすれば7つの劇場はそれぞれ独立しているが、実は映写投影の仕事をする場所(いわゆる映写室)は、映写機の高さと同じところのフロアにあり、そのフロアはすべてつながっていたりする。
映写室内はだだっぴろく、劇場Aの映写機の20m隣に、劇場Bの映写機があり、劇場CとDは小さいので5m隣に映写機が並んでいるといった形だ。
そんな感じでギリギリ見渡せる範囲に7台の映写機が置かれている。
なお、映写室内は事務作業をするイスと、一番遠い映写機では、50m以上は離れているため、もし何かあったらダッシュである。
今はどうなのかわからないが私がアルバイトをしていたその当時、映画はまだ「フィルム」を使っていた。
そのフィルムを凶悪な光を放つキセノンランプで投影し、横幅は軽く10メートルは越えるような画面に映し出しているのだ。
フィルムはプラスチックで出来ていて、2時間くらいの映画だと、そのまかれたフィルムのサイズが1.5mくらいの直径になるくらい大きかった。
そのフィルムを映写機にセットすると、それが「パラパラ漫画」のように映写機が自動で流していくのである。
流れた後、フィルムは再度、映写機の別のところに自動的に巻き返しされる仕組みになっており、巻き直しは必要がない。
当初、このDVD全盛の時代に、いまだフィルムなんて冗談だろ?と思ってしまったりはした。
7台の映写機を回すアルバイトの最低必要人数は2人。
アルバイト2人の時間帯もあるし、社員+アルバイト1人のときもある。特別作業があるときは社員+アルバイト2人だ。
10分程度で映写機を清掃+フィルムセット+音声やスクリーンの設定変更+もう1名がフィルムをきちんとセットできているかの確認をし、館内各員にトランシーバーでスタートを伝えたのち、スタートボタンを押すという手順。
一旦映画が終わってから、最速でその映写機で同じ映画を回すには、おそらく8分は必要だ。
ただ、そんな短い時間では劇場のお客さんを入れ替えられないため、もっと猶予がある、というのが現実だ。
スタートしたら、画面にきちんと移っているかチェックし、ピントを手作業で完全に合わせ、本編上映後5分くらい様子見をして次の仕事に移る。
そうこうしていると、他の1台の映画が終わる。
もう一人が映写機前で映画の終わり待ちをし、その映写機の清掃~セットまでを行う。
また7つも上映できるような映画館では、1つの映写機で15:00~「世界の中心で愛を叫ぶ」を上映し、18:00~「ファイディングニモ」を上映することもある。
そうなると、直径1.5m近くのフィルムを手で別の映写機まで運ばないとならない。
一人では当然運べなく、2人がかりで良く運んだものじゃった・・・
そんな感じで、上映と終了が連発する時間帯、実は裏方は映写場を走り回っていたのだ。
本当にダッシュする瞬間があるくらい忙しいタイミングすらあるレベルなのだ。
(ただ特定のタイミングだけが忙しく、全般でいえば、ゆったりとしたアルバイトだったと思う。)
映写機を回すアルバイトは2年間くらいやっていたが、「世界の中心で愛を叫ぶ」の上映で一度盛大にトラブったことがある。
それはなぜか・・・
仕事の手順をサボったため、気が付くのが遅れ、まともに映像が流れない自体になってしまったからだ。
その夏、私はアルバイトした金の大半を使って海外旅行に行く予定だった。
それも一人旅で1か月近くも行く。
その海外に行く日の前日まで、当面アルバイトを休むということもあって、収入面から積極的にアルバイトに入っていた。
そして海外旅行前日に悪いことは起きる・・・
2年もやっているアルバイトなんで、楽々業務をこなしていく。
ファインディングニモを動かし、リディックを動かし、フィルムをセットし、合間に清掃し、空き時間はさらに各劇場の音声チェックとしたり、スクリーンに異常がないかを巡回チェックする。
そうして夜も22時近く、レイトショーの時間になる。
この日の直前、1か月近くも海外に行く予定だったので、連日海外の情報を調べ、情報を調べ、情報を調べた。
行く国は、治安もあまりよくない国であり、大学受験の時期から英語力も衰えている。
だから勉強と情報収集はかなり念を入れて行う必要があったのだ。
レイトショー用のフィルムセットも終わり、スタートの合図をトランシーバーでかける。
私「〇〇時、〇番スクリーン、世界の中心で愛を叫ぶ、間もなくスタートします」
ホール担当「OKです、お願いします」
私「(ポチっとなドゥン!!)」
ガシャン・・・と映写機が音を立て、キセノンランプが立ち上がり、フィルムが流れ始める。
最初の10分ほどの広告の部分、チラッと小窓から画面をチェック。
何も異常なし。
「さて、ちょっと座るか・・・」
と普段はそんなことはしないのだが、すごく疲れていたんだろう。映写室の機械前で少し座ってしまったのだ。
ありえないことだが、フーッと息をついたら、そのまま一瞬で寝てしまい、広告⇒本編切り替わりのタイミングを見逃してしまったのだ。
今思えば、どんだけ疲れていたんだ・・・という感じがする。
ちなみに普通ならばあらゆる設定は自動。
なんら問題がないのが基本だ。
しかしホール(劇場側接客)の担当からレシーバーが入る。
ホール担当「画面サイズおかしくありません?」
・・・ヒヤっとした。
すとん、と血が頭から落ちる感覚がある。
やばい、と思い血の気が引くとはこのことか!身をもって実感してしまった。
一瞬で目が覚め、映写室の小窓から画面を見てみると・・・
画面サイズが小さい!?
ランプで投影された映像が端のほうで少し途切れているのだ。
あわてて、スクリーンサイズ変更のボタンを押す。
しかし画面サイズは動かない!
なんでだ。これは本当にヤバい。
自分だけで対処が必須だ・・・・焦りが強くなる。
なぜならばレイトショー時間帯は、アルバイト1人でも回すことが出来る。
私は経験2年レベルのベテランアルバイト。
当然私一人でレイトショーを回している。
映画館の事務室で考えても、映写関連のスタッフは私一人だけとなる。
時計を見ると、本編上映から、5分は経過している。
色んな考えが浮かぶ。
①別の部門の正社員に伝え指示を仰ぐか
②映写機を止めるか
③スクリーンサイズボタンをもう一度押すか
④ダッシュでこの場から逃げてしまうか
まずは③を試して、そのあと①か!となる。
映写機を止める判断は私では絶対にできない。
④は精神が耐えられなくなったときの最終手段だ!
私「社員の方へ、ボタンが効かずスクリーンサイズ変わりません。映写部門の社員は帰ってしまっています。」
ホール担当「すぐホール責任者にレシーバーで出て貰います」
ホール責任者「どうしたの?」
私「スクリーンサイズが違っているのですが、変更のボタンは何回か押しても変わらないです。2分くらい置いたのでまた試そうと思います」
社員「了解。試してみてくれ」
私「サイズ変更やはり動きません。映写機止めるか、このまま流しながら直すかになりそうです。」
ホール責任者「取りあえず出来ることすべてやってみて。止めるのはさすがにまずい」
私「承知しました。」
こうなったらイチかバチかだ。
スクリーンサイズ設定は複数種類がある。ワイドやスーパーワイドなどなど
たぶん5つくらいあるのか。
全部の切り替えを総試ししてみようと思った。
強烈なキセノンランプが点いているとすさまじい熱のため、映写機を止めないと切り替え機を手で触ることはできない。
もし手ではなく、棒かなんかで押そうとして、レンズに傷がついたらそっちのほうが大問題になる。
そのため、「ボタン操作できること=今出来るすべてのこと」となる。
もう一度正しい設定ボタンを押す。
映写機「シーン・・・」、何ともいわない!!!
設定違いのAの画面設定を試す・・・
映写機「ウィ!!」
あれ、何か反応した。微妙に動いたかもしれない??!
設定違いのBの画面設定を試す・・・・
映写機「ウィ!!」
何故か完全ではないが少し動く。詰まっているのか?
もう一度、セカチュー向きの設定ボタンを押すと・・・
映写機「ウィーン!!」
結構動いたぞ!行けるか???映写室の小窓から劇場を見ていると・・・
映写機「ウイーン、ガシャン」
画面がいったん一部暗くなり、設定が正しくなった。
それとともに、何かおかしいと思っていたお客さんは全員設定が間違っていたことに気が付くだろう。
ホール担当は「次回用のタダ券を配る」と思う。
私も終わるタイミングで下に行って、出てくるお客さんに頭を下げて出迎えよう。
偉い人への報告・対策書記入もあるので、今日は遅くなりそうだ・・・
明日海外出発だけど、安い航空券のため、夕方発だしなんとかなるかな・・・
そんなこんなで、映写機を回す立場から、もっとも印象深い映画は「世界の中心で愛を叫ぶ」になった。
今回のテーマは「夏の作品」。
本来は夏に見たor夏をイメージする良質な映画、ドラマ、アニメのレビューが並ぶのだろう。
だが、私は印象的な出来事から、「実は内容をすべて見ていない、世界の中心で愛を叫ぶ」がもっとも夏の作品と思えて仕方がない。
本編は、映写室の小窓から画像チェックで見ている程度だ。
映写機ではなく、今はインターネットとPCなどで映画が見られてしまうが、こんな全く違った目線のセカチューもあるので、このブログを読んだ方はセカチューをぜひ見てみて、変化球でレビューしてほしい(笑)